2021年11月30日

由佳理~桜の頃に。

僕はずっとラジオが好きだった。
ラジオの中で
僕は[メッセージ]という形で
生きることができる。

どんなに嫌な事があっても
送ったメッセージが読まれたら
ちょびっと、胸の奥が
スカッとする。


そんなある日
エンクロス(延岡駅)内
いつものようにイヤホンでラジオを聞いていると
リスナーさんが僕に呼び掛けた

『メッセージはキーウイさんから、駅長さんへです

駅長さんは、駅にいらっしゃいますか』

僕のラジオネームは
駅長。
電車が好きで
駅が好きで
子供のころ、絵を評価されて、ご褒美が
1日駅長
だったのだ。

いきなり名前を呼ばれたのでドキドキはらはらしたが
返事の メッセージを送った

[僕は本当は、昔
1日駅長をしただけなので
駅に居るときと居ないことがあります。
でも、駅が好きなので
2階のカフェ付き書店で
時々 ぼーとしたり、本読んだりしにいきますよ]

僕はそぅ答えた。


数日後。
いつものように本を読んでいると

『駅長さん?』

目がくりっと大きい、ストレートボブの女子高生から声がかかった。

内心、慌てる
(昔懐かしいかんじ。誰だっけ?えーっと。)

そんな僕に彼女はくすっと笑い
『覚えてませんか、ゆかりです♪』

(あっ。一ノ瀬結花理ちゃん。
僕が一日駅長していた頃
近所に住んでいた同級生の妹だ!
よく一緒に遊んでて
途中で僕は隣町に引っ越したんだっけ。あの時、泣いて追いかけてきてくれた女の子。あの時可愛らしい小学1年生、きれいになったなぁ)

『お兄ちゃん、お久しぶりっ!時々ここで見かけてね、似てるな~て思ってたけど、確信がなかったの!あと、ラジオのメッセージの感じが、お兄ちゃんの話し方に似てるなぁて思って
だからこないだラジオで質問したの。
そしたら、やっぱりお兄ちゃんだった♪』

ラジオネーム キーウイ=彼女、結花理だったのか

僕はどう答えただろうか
なぜか緊張して、しどろもどろだった気がする。

彼女が去っていく後ろ姿を見送りながら
そんなことを考えていた。



3ヶ月過ぎても
もう結花理は現れなかった。
駅裏の桜が満開になり
駅の正面と西口をつなぐ 渡り廊下で
階下に電車が入ってくる。
そんな登り下り電車を数回見送り、僕は正面玄関の方向へ降りようとしていた。

『お兄ちゃん』

「結花理ちゃん?」


こないだ、高校のセーラー服に身を包んでいた結花理が
ベージュ色のスーツ・黒のパンプスをはき
で、更に女性らしくなっていた。

『私ね、お兄ちゃんに似合うように頑張ったよ!卒業して、就職も決まったの♪』

彼女のキラキラ感に、眩しさを覚えながら
「卒業&就職おめでとう!
・・・ん?似合うようにって?」

『私、ずっと優しいお兄ちゃんがずっと好きだった!私と結婚して。』

唐突な彼女に驚く
「あれは、子供時代であって、今の僕ではないよ」

そう伝えると

『昔も今も、お兄ちゃんは優しいよ!こないだ私の友達を助けてくれたよ』

その後、話を聞くと
秋頃に、駅校内で迷っていた聴力障害の子を電車に乗るまで案内したことだった。確か、四国に帰るゆうてたな。

あの時、見送る予定だった結花理が、渋滞にはまって遅刻したのだそうだ。そして僕が友達を優しく誘導している背中を少し離れて見ていたのだという。
そういえばあの、電車に乗った子から名前、聞かれたんだったな。

『お兄ちゃん、私と結婚しよ♪』

昔から、彼女は猪突猛進型だったが、びっくりだろ。

「いや、、急には」
『じゃあ、じゃあ、結婚を前提にお付き合い、しましょ!』

ちょっっと待てよ
なんなんだこれは
どっきりか?と、周囲をキョロキョロする

『お兄ちゃん、あたし、本気よ!じゃあ、また明日、ここの2階、いつもの窓側の席にいてね』

そう言って居なくなった翌日。
ばか正直で
由佳理と話したいと思って少しの期待を持ちながら
いつもの席に座っていると

『ヨォ』
細身で長身の彼は
一目でわかった
由佳理の兄・裕也だ

「久しぶり!元気?」

『元気にしてるよ。
由佳理がなぁ。。
本気らしいぞ(笑)』

『実はあの時な、引っ越したあと、ず~~っと、泣いててな。お兄ちゃんと結婚したい!一緒に、行きたかった!てな。親父もおふくろもなだめるのに時間がかかったんだぞ~。まだ想ってたなんて、兄貴の俺も昨日聞いてびっくりだったけどな(笑)。まぁ、どこの馬の骨かわからんやつより、俺の義弟になるのも良いやろ?考えてやってくれよ』


「そりゃぁさ、僕も由佳理ちゃんは可愛がってたし。でも、あれから何年経ったと思う?僕に夢を見られて、付き合って、現実を目にしてがっかりするのが落ちだよ?そんなんでいいのか?」

彼裕也とは、地元の大学で、学部は違うが時折会話を交わしていたから、違和感無く話せた。

『いいんじゃないか、お前なら。』

この兄妹は。。

『とりあえず、3日に一回くらい、一緒に晩飯食ってやってくれ。両親が他界して、ばぁちゃんはいるけど
俺は仕事忙しくて、構ってやれないんだ、頼むよ』




その言葉から5年後
今山で由佳理と
結婚式をしている。



人生は不思議なものだ







数日毎に地元の居酒屋や、ファミレスで夕飯を食べ、
その後は由佳理の祖母とも、夕食を共にするようになった。

祖母から
『早くひ孫を抱かせておくれ、花嫁姿を見せて欲しい』


その頃には僕は由佳理の素直さと明るさに、すでに引かれていた。

いや、
駅で逆プロポーズを受けてから

いやいや
幼きころ
引っ越してから
彼女に会いたいと思っていた


そぅか。


結婚3ヶ月前
僕から正式にプロポーズをした。


由佳理は
『じゃあ、結婚式は、今山で!披露宴は、エンクロス2階を貸しきってね♪お兄ちゃん!
旦那様(*゚ー^)』

彼女のいたずらっぽい眼差しは、幼い頃と同じだった。


僕はいつものラジオに
メッセージをいれる


[結婚します
彼女の、幼き頃から変わらない笑顔を守りながら、一緒に歩んでいきます。]











Posted by ayaori at 05:01│Comments(0)
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